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2021/05/11 10:09 - No.1043


第2回 工務店が手がける住宅デザインとは


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住宅デザイン・テクニック!~地域工務店が売れるための住宅デザイン
石川 新治

2021/05/11 10:09 - No.1043

 
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住宅デザインを語ろうとするのは、とても難しいものです。その難題の住宅デザインについて、書いてみたいと思いました。できれば住宅の担い手である地域工務店の経営を観点にして住宅デザインを考え、工務店にもできるテクニックとしてまとめてみたいと思います。(前回記事はこちら





建築家のいない建築

工務店が売れるための住宅デザインをタイトルにして語るのは簡単ですが、デザインそのものにはさまざまな解釈の差もあり、整理するのは難問です。

まずは、次の1枚の住宅写真を見て、どのように感じるでしょうか?


 「ずいぶん古臭い家だ」
 「現代ではとても住めない」
 「近くにもこんな家がある」
 「これはこれで、カッコいいかも」

たくさんの声が聞こえてきそうですが、現存する日本最古と推定される住宅のひとつで、兵庫県神戸市にある箱木家住宅です。江戸時代から『千年家』と呼ばれ、約700年前の室町時代の建立とされ、国の重要文化財にもなっています。

サッシも畳もなかった時代の建物が、今の人に住みやすいとはいえるはずもなく、展示物にすぎません。でも、近年まで長い期間、人が暮らしてきたことも間違いありません。
では、この千年家は、デザイン的に見たらどうでしょうか?

屋根の勾配を始めとして壁とのバランスや、右の無窓壁と縁側の対比も絶妙で、現代のモダンデザインにも通じていると感じるのは私だけでしょうか。

単純な急勾配寄棟にするとシンプルが過ぎ、茅葺屋根の棟飾りや置千木があるからこそ、低くて長い軒先とのバランスが取れています。軒先のライン、玄関のセットバック、縁側のパーツのプロポーションもそれなりにバランスが取れています。
なによりも現代の住宅部品では、実現できないデザインでもあります。

多くの人が美しさを感じるからこそ、文化財として残される理由にもなります。
そしておそらく、当時には似たような建物がたくさん建てられていたのだと考えられます。そのごく普通の建物が、デザイン的に優れているのです。

建てた棟梁や大工は、もしかしたら調べようがあるかもしれませんが、設計した建築家がいたとは思えません。おそらく、デザインは棟梁か大工の頭と腕に、様式としてあったものでしょう。そして、当時としては、できる限りの技術を尽くして、建立していたであろうことも想像できます。

もちろん、この『千年家』のことだけではありません。世界遺産となっている飛騨高山の『白川郷』も、合掌造りという様式で建てられていて魅力あるデザインです。

こうした建築物の美学を、アメリカのバーナード・ルドルフスキーは『建築家なしの建築』(Architecture Without Architects)という言葉で記しました。
中でも家というのは、自然発生的、風土的、土着的な要素が大きく影響しています。

ゲニウス・ロキ

建築の学習の中で、一度は通るのが『ゲニウス・ロキ』という言葉です。

「genius loci」とは、ローマ神話における土地の守護霊を表し、建築や芸術の世界では「土地柄」とされます。いわゆる「風土」に通じるものです。


建築家は、建てようとする土地の中に立ち、ゲニウス・ロキを感じて、その土地にあった建築物をイメージする人です。彫刻家が、木や石や土の塊から、呼び起こされるようにして芸術作品を生み出すのにも似ているかもしれません。


余談ですが、なぜか建築家として紹介される人たちは彫刻家とは違い、まるで聖職者のような黒っぽい服装をした風体をしていることが多いように思えます。本来であれば、地の色に染まらないといけないと思うのですが、地霊を相手にしている聖なる意識からなのでしょうか。モノクロ写真でプロフィールを紹介するのもパターンのひとつです。


土地柄には、気候風土などの環境や、風習や文化なども含まれます。まったく前例のない荒野に建てるのであれば、ゲニウス・ロキは自然そのものですが、すでに先人の建てた建築物や街があれば、それは風土の一部となっています。


その風土から生まれ、すでに風土の一部になっているのが、先の『千年家』であるといえます。そして、『千年家』には、建築家はいません。

前述の白川郷も、そして他にも出雲の築地松にも、建築家のいない建築が散見され、そこにはゲニウス・ロキが存在しています。


しかし逆説的に、どうやら建築家は、結果的にゲニウス・ロキを離れて、風土を超える存在を目指しているように思えます。日本芸術の訓である『守破離』に従っているといえば、カッコ良いでしょうか。


ずいぶんと面倒な話になりましたが、ここに建築家のデザインと工務店のデザインの違いが見えているといえます。そして、工務店が売れるためのデザインとは、建築家のデザインではなく、ゲニウス・ロキという建築家のいないデザインであるべきと考えます。

もちろん、建築家のデザインは、挑戦的で施工上の勉強にもなる所もありますから、工務店が建設を拒む必要もありません。ただ、その地域に根づき、お客様がお客様を呼び、地域の風土となるようなデザインこそ工務店が求めるべきデザインであるはずです。

建築家のデザイン

そんな事例をひとつ考えてみましょう。


大それた事例ですが、近代建築の3大巨匠といわれるコルビュジェの建てた『レマン湖の小さな家』です。コルビュジェが両親のために建てた小住宅は、今や世界遺産となっています。建築の中でも住宅に最も深く興味を持つ私自身も、この小住宅に敬意を持ち、さまざまな部位でデザインの勉強になっています。これからのデザインの話の中でも、触れることになるでしょう。


参照:Wikimedia commons


この「小さな家」については、コルビュジェ自身も本を残しているほど思いを込めていたのですが、じつは、いざ両親が住み始めようとした時に、その地域の町長がその住宅に対して、“自然に対する冒涜”であるとして似た建築物を禁じてしまったことが書かれています。

 
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石川 新治
一社)住まい文化研究会

明治大学工学部建築学科卒業。1981年ミサワホーム株式会社に入社。技術部設計から販社営業を経て、宣伝部マネージャーとして企画広報活動全般を経験。2007年、MISAWAinternational株式会社にて200年住宅「HABITA」を展開する。住宅の工法、技術、営業、マーケティング、商品化、デザイン、広報、住まい文化など、全般に精通。現在、一般社団法人住まい文化研究会代表理事として、機関紙「おうちのはなし」を発行し、全国の地域工務店の活動を支援している。主な著作に、「おうちのはなし」(経済界)、「地震に強い家づくりの教科書」(ダイアプレス)がある。

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