引き続き「外皮について」というテーマで「省エネのキホン」的考察を進めます。前回から「住宅の気密性能」に関する内容を始めています。
■なぜ「気密性能」が必要なの?
前回は、住宅の性能、特に「気密性能」に関するSNS上でのエンドユーザーのコメントで見受けられる各種意見と、今年2021年7月に出版された「HEAT20設計ガイドブック2021 正しい住宅断熱化の作法」にて、「気密性能水準の提案」として具体的なC値(相当隙間面積)が挙げられていることをお伝えしました。
それらはあくまで「現在、こんなことになっていますよ」というアナウンスでしかなかったので、「だからどうした。ウチは関係ない」と言われればそれまでです。
そこで今回は、「なぜ気密性能が求められるのか」について、「改めて」整理したいと思います。
「気密化の目的」としては、まず下記の4つが挙げられてきました。
1.「漏気(隙間風)を防止して暖冷房負荷を低減」
意図しない漏気が減ることは室内環境の向上にもつながります。
2.「断熱材の性能低下の防止」
断熱層は隙間なく連続してこそ性能を発揮しますが、そこに外気や床下からの空気が自由に行き来すれば、設計した仕様通りの断熱性能は期待できません。
3.「繊維系断熱材採用の場合の室内側気密化による防湿効果で壁内結露を防止」
熱抵抗値の高い乾燥空気を固定することで断熱性を発揮する繊維系断熱材は、施工部位に水蒸気を多く含んだ空気が侵入すると、断熱性が低下し、壁内で露点温度となる箇所では結露がおきます。
4.「計画換気が成立するための出入り口の明瞭化と必要風量の確保
どれだけ高性能な換気システム、完璧に近い換気計画でも、設計した通りに空気が動かなければ、求める効果は得られず、消費電力ばかりが増えていくという結果に。
これら4つは、平成11(1999)年省エネルギー基準(いわゆる「次世代省エネ基準」)にて定量的な義務化基準と共に示されていた項目でもあるわけですが、その当時の基準の要求性能は
・「Ⅰ、Ⅱ地域」でC値(相当隙間面積)が2㎠/㎡以下
・「Ⅲ地域以西すべて」でC値が5㎠/㎡以下
というもので、今の感覚からすると決して高いものではありませんでした。
にもかかわらず、平成18(2006)年の改訂で定量基準が廃止されましたので、省エネ関係の基準で「気密性能」が明確に取り上げられることは無くなりました。
その後も、「外皮性能を示す指標の変更(Q値→Ua値)、一次エネルギー消費量も性能指標に加える」という大幅な改正がされた平成25(2013)年省エネルギー基準(省エネ法)や、続く平成28(2016)年省エネルギー基準(建築物省エネ法に移行)においても同様の状態が続き、「気密性能」は完全に表舞台から姿を消しました。
では、現代の住宅において「気密性能」はそれほど必要では無いのでしょうか?
いえ、まったく違います!
それどころか実際は、新築住宅の断熱性能の水準(設計・施工の実績)が向上するにしたがって、「気密」を無視した場合の危険性が高まっていく、という状況なのです。
どういうことでしょうか?
冒頭に挙げた4項目のうち、まず1.と2.に関して申し上げますと、木造住宅の大部分を占める「在来木造軸組工法」は、構造として柱と梁を基本とする成り立ちから、そもそも各部で漏気が起きやすいという性質を抱えています。
いくら断熱材を厚く設計・施工しても気密性が低ければ、たとえば冬場、屋内の場所ごとの温度差があり廊下に出ると肌寒いとか、暖房温度を上げるほど足元から入ってくる冷気(隙間風)が気になって寒い、というような状況も起きやすく、それらを防ぐためには、各部位の丁寧な気密施工が求められるのです。
もちろん、この点は他の工法でも程度の差こそあれ同様なのですが、ボリュームゾーンが一番大きい工法という意味でまず注意が必要だということです。
次に3.に関しまして申し上げますと、断熱性能が向上するに従い、壁内部でおこる「内部結露」の可能性も高まる、ということが挙げられます。
少し分かりづらいと思いますので追って解説する予定ですが、その流れとしては(冬場を例とします)、
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