1980年代に充填断熱工法の標準となる新在来木造構法を構築したことを皮切りに、快適で光熱費の掛からない高断熱住宅の普及に向け、多くの提案と実践を行ってきた鎌田紀彦氏。
鎌田氏が考える高断熱住宅の課題や技術動向について4回にわたって聞いていく。
鎌田紀彦氏
室蘭工業大学名誉教授
一般社団法人新木造住宅技術研究協議会[新住協]代表理事
−ここ数年の高断熱住宅関連で大きな動きは何でしょう
鎌田 2020年の省エネルギー基準の義務化でしょう。義務化自体は雲行きが怪しくなっていますが、制度上は準備が進みました。最も大きな変更点は断熱性能の評価方法がQ値からUA値に代わり、住宅の1次エネルギー消費量の計算ができるようになったことです。
−一方で要求する断熱性能としては、次世代省エネ基準(平成11年基準)からほとんど変わっていません
鎌田 推奨基準から義務基準に移行するだけなので、省エネ基準のレベルを上げる必要がないということなのでしょう。基本的にはそのままスライドします。
−改めて平成11年基準をどう評価しますか
鎌田 平成11年基準により、そこで示された仕様を満たせば高断熱住宅がつくれるようになりました。その意味で平成11年基準には意味があった。ただし、現行の平成25年基準の要求性能が平成11年基準とほぼ同じなのは問題だと思います。
−どのような点に問題がありますか
鎌田 簡単に言うと省エネにつながっていないことです。プレハブ住宅を見ると、2013年には全棟が平成11年基準に準拠していました。そのことを踏まえると、平成11年基準に基づく住宅はすでに100万戸は建っていると推察されます。日本は温暖な5地域から7地域に人口の8割が集中していますから、平成11年基準に準拠した建物の多くもこれらの地域に建っています。そして、5〜7地域の要求性能は平成11年基準のなかでもかなり甘いのです。
−それでも新省エネ基準との比較では省エネになるのではないでしょうか
鎌田 これまでと同じ部分間欠暖房を前提とすると多少省エネになりますが、全室で連続暖房をするとむしろかなり増エネになります。部分間欠暖房から全室連続暖房に変えることで、大まかに言って年間光熱費が5~7地域で1~2万円程度上がります。
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