日頃、マンション管理組合のコンサルティングをして気づくのは、日常の支出を見直す習慣がほぼ見られないということです。
管理組合の会計収支を見ていると、管理費や駐車場等の専用使用料といった収入については一定もしくは減少する傾向があります。一方、支出面については消費税の増税の影響に加えて、経年とともに修繕費や損害保険料等が増える傾向があるため、その財政状況は徐々に苦しくなっていきます。
これをそのまま放置していると、収支が赤字に陥り、いずれは管理費を増額改定せざるを得なくなる可能性があります。
そこで、日常的な支出の見直しの入門編としてお勧めしたいのが共用部の電気料金です。
電気料金を節約するための3つのアプローチ
まず、毎月の電気料金は、以下の算式で求められます。
基本料金+電力量料金+(燃料調整費+再生可能エネルギー発電促進賦課金)
「基本料金」とは、使用する電力量に関係なく発生する最低料金のことですが、契約アンペア数が大きいほど高くなるのが一般的です。
「電力量料金」は、使用電力量に応じて発生する従量料金で、料金の単価自体も使用する量に応じて段階式に高くなる仕組みになっています。
こうした料金の仕組みから、共用部の電気料金の削減対策としては下記のとおり3つの方法が考えられます。
1.消費電力量を減らす方法
2.基本料金を下げる方法
3.料金単価を下げる方法
これら3つのアプローチに沿って、以下具体的な対策をご紹介しましょう。
(1)消費電力量を減らす方法
これは、「省エネ」対策とも言い換えることができます。たとえば、照明灯の一部を間引いたり、タイマーの設定等で点灯時間を短縮するのも可能ですが、もっとも効果的な対策はLED照明への切り替えです。
しかしながら、築20年を優に超えるマンションでも、いまだにLED化していないケースが珍しくないのです。
特にダウンライトに使われるハロゲンランプや、外構部に使われるハイビームランプなどの場合はLEDに切り替えると消費電力が90%も減るため、初期費用が1年以内に回収できるほどです。
また、LED化に際して照明器具の交換は必須条件ではありません。天井部に使用されることが多い直管式の蛍光灯の場合、LED化で不要になる安定器をバイパスする配線工事を行えば器具を交換する必要はありません。
一般的には、LED化にかかる初期コストも電気料金の削減効果によって概ね4~5年程度で回収できるでしょう。
LED化の節約効果は電気料金の削減だけではありません。LED電球の平均寿命は4~5万時間(当初の照度比で30%減を寿命とした場合)あるため、半日点灯の箇所なら約10年もちますから、管球の交換費用も節約できるわけです。
非常用照明のLED化は要注意!
照明灯のLED化で留意すべきなのは、「非常用照明」です。非常用照明とは、停電時でも一定時間の照度を確保できるように内臓バッテリーを用いた照明で、建築基準法によって設置基準が定められています。
【非常用照明】
以前は、非常用照明器具の光源は「白熱電球」と「蛍光灯」に限定され、LED電球は一切使用できませんでした。
しかし、その後の法改正によって国交大臣の認定を受けたバッテリー内蔵型LED照明に限り可能になりましたが、普及して日が浅いこともあり、一般の器具と比べるとまだ高額な費用がかかります。
また、非常用照明の場合、比較的高所に設置されているケースも多いことから、工事費も高くなります。(1~6か所の交換につき5~6万円程度)
一方、非常用照明の存在意義を考えると、緊急の際に点灯しないのでは意味がないため、設備の定期点検で不具合が指摘されれば早急に対応することが求められます。
そのため、照明器具の標準耐用年数(15年)を超えている場合には、都度交換するよりも全体を一括でLED化するほうがトータルコストを節約できるのでお勧めしています。
(2)基本料金を下げる方法
基本料金を下げる方法としてお勧めするのが、「電子ブレーカー」の導入です。
【電子ブレーカー】
マンション共用部の受電契約は、原則として「動力」と「電灯」の2系統に分かれています。「動力」については、共用部の各設備のモーター容量の合計(KW)を契約容量としているのが一般的なため、その稼働状況や使用電力に関係なく最大電力値での契約(=負荷設備契約)となっているのが一般的です。
ただ、設備が常時稼働しているようなメーカーの工場などと異なり、マンションの共用部の設備で常時稼働しているのはごく一部に限られます。
そのため、実際の設備稼働の際にブレーカーに流れる電流をもとに使用電力を決定し、ピーク時の電力は使わないという契約(=主開閉器契約)に変更することによって、毎月の基本料金を引き下げることができます。
ただ、こうした契約形態に変更するには、実際に設備が稼働する際の電流値と時間を測定できる「電子ブレーカー」を新たに設置する必要があります。
電子ブレーカーの相場価格は30~40万円で、原則としてメンテナンスフリーです。エレベータや機械式駐車場があるなど動力設備の豊富なマンションほど削減余地が大きくなります。(ただし、電子ブレーカーの導入は、低圧受電のマンションに限られます。)
(3)料金単価を下げる方法
初期費用も一切かからないため最も実行しやすいのが、地域電力会社から新電力への切り替えです。
2016年4月以降、電力の小売りが完全に自由化されたことによって、その後異業種を含めて多くの企業が市場に参入しています。
競争が激化する中、各社がしのぎを削っているため、すでに新電力に切り替えていた顧問先のマンションでも、同業他社から相見積もりを取得したところ、さらに料金が1割下がったという事例もあります。
新電力への切り替え検討の際の注意点
ただし、新電力への切り替えで留意すべきこととして、以下2点をお伝えしておきます。
一つは、新電力の経営リスクです。
今年3月下旬に、大手新電力のF-Power(エフパワー)が会社更生法の適用を申請し、事実上の倒産に追い込まれました。
価格競争の激化で少し前から同社の経営状況が厳しくなっていたところ、昨年末の寒波による需給逼迫やLNG(液化天然ガス)の供給不足などを背景に卸売り市場が一時は10倍超にまで急騰したことが、自前の発電設備を持たない同社の経営を直撃したようです。
ただ、受電先の新電力会社が経営破綻しても、それによって電気の供給が停止することはなく、地域電力会社からの供給を受けることができるため、利用者として最悪のケースの心配は無用ですが、期待していたコスト削減効果は失われることになるため、新電力を選ぶ際には自前の発電設備を有する企業を選ぶことをお勧めします。
二つ目は、現在の電力会社との契約内容の事前確認です。
たとえば、東京電力の場合、従来は夜間電力料金が半額になる「電化上手」というプランを提供していました(現在、新規受付は終了)。このプランで契約しているマンションは、新電力に同様のプランがないため切り替えるべきではありません。
今回以上ご紹介した3つのアプローチは、基本的に重複して組み合わせることも可能なので、相乗的な経済効果を得ることも期待できます。
それぞれのマンションの規模や特性に合ったメニューを組み合わせながら、その費用対効果を検討されるとよいでしょう。