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2021/10/28 07:30 - No.1095


第4回 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策|あり方検討会とは(前編)


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竹内昌義が語る「これからの断熱」
竹内 昌義

2021/10/28 07:30 - No.1095

 
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当コンテンツは、みかんぐみ共同代表/エネルギーまちづくり社 代表取締役である竹内昌義氏の連載記事です。

断熱改修することで "冬の寒さ・夏の暑さが軽減される" ことを通じ、「どのように暮らしの質の向上が図られるのか」、さらには「現在、世界的に目指している脱炭素社会への転換についてはどうなのか」という点に重点を置き、各回でテーマを決め、可能な限りわかりやすくご説明します。


 第1回 断熱改修のこれから
 第2回 学校の断熱改修
 第3回 日本初の本格的エコタウン「オガールタウン」

上記にありますとおり、これまで、断熱改修を含めた "建物の断熱化の事例" を3本ご紹介してきました。

断熱改修を行うことで、生活や学習の質が向上したり、質の良い高断熱住宅をつくることで、町に新しい産業が生まれる……など良いことがたくさんあり、そこには関わる人々の熱意や様々な努力がありました。

ただし、今絶対的に行うべき建物の断熱化、その根本である脱炭素化については、正直なところ順調に進んでいるとはいえないのが現状です。そんな状況を踏まえ今春、脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(以下、あり方検討会)が設置されました。 今回の記事では、「なぜ脱炭素、そして建物の断熱化が必要なのか?」をお伝えしながら、あり方検討会そのものについてもご紹介していきます。


当記事の目次
1. 地球温暖化はどんどん進んでいる
2. 世界はエネルギー自給に向かっている
3. 住宅の省エネ化は無理なのか
4. 2050年に向けた様々な動き

◆地球温暖化はどんどん進んでいる

温暖化に対する懐疑論はいまだにありますが、気候が変わってきていることは明らかです。

日本では豪雨による災害が絶えず、梅雨の時期に大きな台風並みの被害が頻発、今年は熱海で大きな土砂災害もありました。アメリカ北東部では
今年9月、ハリケーン「アイダ」により大規模な洪水が起こり、ニューヨーク市長が「われわれは歴史的気象事象に見舞われている」と宣言しました。ごく最近には、インド、ネパールで豪雨により大規模な洪水や地滑りが起こり、多くの命が失われています。このようにもはや四六時中と言えるほど、世界中で豪雨や高潮、干ばつや山火事など気候変動が要因とされる災害が起こっています。


国連の世界気象機関はこの9月、気候変動が主な要因となる洪水や熱波などの災害が、50年間で5倍に増加したと発表しました。さらに、ドイツのシンクタンクが発表した資料によれば、2018年に気候変動の被害を最も受けた国は日本だということでした。

こうした災害は、家屋の倒壊などの物理的な被害で生活が脅かされるだけではなく、経済的なダメージも非常に大きく、さらに紛争や気候移民の問題なども発生しています。
先進国も途上国も関係なく起こる自然災害。地球温暖化はとても深刻な問題となっていて、その対策はすでに待ったなしの状況であり、温暖化対策は、まさに世界中で取り組むべき大きなテーマです。

すでにパリ協定では、温暖化を産業革命前と比べて1.5℃までに抑えるために、今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすること、つまり「脱炭素化」を目指していて、それに基づいて日本でも「2050年カーボンニュートラル」が宣言されました。2030年度に温室効果ガスの46%削減~2050年のゼロを目指しています。

気候変動による多くの問題をクリアにし、人々がこれまで通りに暮していくためには、もはや二酸化炭素の排出をゼロにするしかない、ということなのです。

カーボンニュートラルという言葉はある程度浸透してきたものの、わが国での対策はまだ道半ば。さらに「そんなこと無理だろう」とか「省エネで我慢を強いられるのはいやだ」と考える人が多いのも事実です。

しかし、そんなことを言っている場合ではありません。2030年まで10年足らず。とにかく目標に向かわなければならないのです。そして、この目標はけっして無理難題ではなく、実現可能であることを多くの人に知ってもらいたいと思います。

◆世界はエネルギー自給に向かっている

脱炭素化のためにすべきことは簡単にいえば、エネルギーを作ること、そして使う量を減らすこと。再生可能エネルギー(再エネ 創エネ?)と省エネルギー(省エネ)ということになります。このふたつをセットで考えないとなりません。


まず、再エネについてです。すでに、再生可能エネルギーによる年間発電電力量の割合が欧州で40%を超える国も多く、欧州全体の平均でも38.6%であるのに対し、日本は20.8%です。
参照)2020年の自然エネルギー電力の割合(暦年速報)

例えば、デンマークでは、2000年に17%、2010年に30%を超え、2020年には75%に達していて、2030年までの目標は100%を超えることです
。また、ドイツでは2000年の7%程度から2010年には20%近くにまで増加し、2020年には45%に達していて、2030年には65%以上、2050年には80%以上を目指しています。取り組みの早かった欧州(EU)では、すでに電気が余っている状態です。

引用元)日本のエネルギー2020年度版「エネルギーの今を知る10の質問」(経済産業省資源エネルギー庁)


この10年で風力や太陽光の導入を進めている中国は、水力も含めると全発電力量に対する自然エネルギーの割合は30%に急拡大していて、発電量ではアメリカ、ドイツを抜いて世界一に達する勢いです。 日本がこれに追いつくためには、国全体のエネルギー政策を変えていく必要があるでしょう。原子力が止まっている現在、日本の電源構成は化石燃料依存度が高く、石炭と天然ガスが7割近くを占めています。この石炭による発電は世界から強い批判を受けています。世界中が脱炭素化に取り組むなか、二酸化炭素排出量の極めて多い石炭火力発電をメインとし、増やそうとまでしていれば批判も当然です。 今後、石炭の輸入が禁止されたり、そうでなくても炭素税が導入されるなど、何らかの規制がかかることは目に見えており、暮らしに欠かせない電気の問題は非常に危うい状態にあります。天然ガスも石炭ほどではないものの環境負荷が大きく、世界的には「脱石炭」だけではなく「脱ガス」の議論も活発になっています。こうした燃料代の高騰は電気代の値上がりに直結しています。コロナ禍の影響で天然ガスも石炭の価格が上昇していることもあり、11月の電気代の値上がりでは一般家庭の平均で1,000円も増加するとも。
温暖化対策、地球のためにすべきとばかり思われている再エネ化は、私たちの生活に直結した大きな問題でもあるのです。また、電気を自給できれば燃料の輸入にかかっている莫大な費用もいらなくなります。

図1:日本国内の電源構成(2019年度の年間発電電力量) 出所:資源エネルギー庁「電力調査統計」などからISEPが作成


図2:日本国内での自然エネルギーおよび原子力の発電電力量の割合のトレンド 出所:資源エネルギー庁「電力調査統計」などからISEPが作成 引用元):【速報】国内の2019年度の自然エネルギーの割合と導入状況(isep|特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所)

◆住宅の省エネ化は無理なのか

2015年のパリ協定の時点で、国全体のCo2削減率26%のうち、住宅・業務部門は40%削減が目標でした。2030年目標が46%になったいま、住宅・業務部門に求められる削減率は、どのくらいになるのか? さらに大きな数値が出てくることは明らかです。建築の省エネのためには、新築建物のゼロカーボン化は必須といえるでしょう。

しかし、日本の住宅は未だ世界に大きく後退しており相変わらず暑くて寒い家が建てられています。2020年に義務化されるはずだった省エネルギー基準は見送りになり、2050年に向けた対策も、いまのところはっきりとしたロードマップは敷かれていません。

コストが上がり住宅を購入できない人が出てくる、技術を持たない現場が混乱するなど、できない(やらない)理由はいくつも挙げられていますが、前回紹介したオガールタウンをはじめ、成功した事例はすでにいくつも出てきています。

例えば、鳥取県は国に先駆け「とっとり健康省エネ住宅」として県独自の断熱基準を策定し、技術者、施主への支援をスタートしました。県産材を用い、地元の業者が施工。最低限~最高レベルとしてHEAT20 G1~3の区分(UA値で0.48~0.23)を用意。2020年基準のZEHを大きく上回る数値です。2030年度までに新築木造戸建ての着工割合50%を目標とし、着工件数を着実に増やしています。


引用元)とっとり健康省エネ住宅性能基準(鳥取県HP|とっとり健康省エネ住宅「NE-STとは」)

地方の取り組みでいえば、長野県は「ゼロカーボン戦略」として、2030年までに温室効果ガス排出量60%の削減を目指すことを宣言しています。2030年に向けて地方は動き出しました。注目したいのは、これらの取り組みがひとつの産業政策だということです。 人口の減少は地方の大きな課題です。なぜ人が減るかというと仕事がないからです。再生可能エネルギーやエコハウス建築は、人口維持のために不可欠な雇用と産業を生み出す可能性をもっています。脱炭素化は地球温暖化を食い止める策ですが、もはや経済そのものといえます。建築しかり、自動車しかり、そんな時代になっているのです。

◆2050年に向けた様々な動き

建築に関しては、今年「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が発足し、私も委員として参加しております。経済産業省、国土交通省、環境省と建築その他の専門家が会議を重ねています。また、それに先立って「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」がスタートしていて、あらゆる分野についての話し合いがもたれ、その様子はYouTubeに公開されています。 2050年までにできることを積み上げていきましょう……ではもう間に合わないません。ゴールから逆算して目標を設定し、それを達成する方法を考えていく「バックキャスティング」への発想転換が求められています。 タスクフォースのほうでは、住宅に正しい断熱基準を設ける最後のチャンスだという意見が聞かれました。今建てた住宅の多くは2050年まで残るわけですから、今から始めていかないと到底間に合わず、とはいえ、ことはスピーディーに進んでいるとはいい難い状況です。 私もあり方検討会でいろいろな提案をしていますが、委員の皆さんの話を聞いていても、これまで断熱基準の義務化が見送られてきた「現場の混乱」や「価格の高騰」といった問題はすでにクリアできることがわかっています。もちろん、何の対策もしない家を建てるのに比べたらお金はかかりますが「家の省エネ性能を考えれば十分元が取れる」。さらに発電した電気代でローンを支払えるなど社会の枠組みが変われば、もっと取り入れやすくなると考えています。 具体的には、断熱性能をHEAT20のG2レベルにして、太陽光を5~6kwのせれば理想的な家づくりが十分可能です。世界的なコンセンサスも、2030年までに新築はゼロエネルギーハウスにするというものです。今、早急に取り組まないと世界から取り残されてしまうでしょう。 当然のことながら、断熱性能の低い家は暮らす人の健康にも悪影響があり、エネルギーがダダ漏れしているので、光熱費も無駄遣いです。 そして、もうひとつ大事なことは、今このことを知って家を建てないと、将来的に損をする可能性があるということです。例えば、何らかの事情で家を売ることになった時、時代に沿わない性能の低い家だったら……ゼロエネルギーじゃない家は価値がなくなってしまう時代が目の前にきていることを、すべての人に知ってもらいたいと思います。


今回は、2050年カーボンニュートラルに向け、日本と世界の現状と、これから、今すぐにでもすべきことをお伝えしました。 次回は、ゼロエネルギーハウスを実践するための具体的な例をお見せする予定です。

 
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竹内 昌義
株式会社 エネルギーまちづくり社

株式会社 エネルギーまちづくり社 代表取締役。東北芸術工科大学 教授。株式会社 みかんぐみ 共同代表。一般社団法人 パッシブハウス・ジャパン 理事。1962年生まれ、神奈川県出身。東京工業大学工学部建築学科卒、同大学院建築学専攻修士修了。東北芸術工科大学教授。ワークステーション一級建築士事務所を経て、1995年長野放送会館設計競技当選を機にみかんぐみ共同設立。2001年より東北芸術工科大学にて教鞭をとる。代表作に山形エコハウス、HOUSE-M他。

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