
YKK AP株式会社が発行する建築業界情報誌「メディアレポート」の「注目!!わが社の家づくり」では、全国のビルダー様の取組みや家づくりに対する想いを紹介しています。
今回はメディアレポート 2025年4月号に掲載されたハヤシ工務店様の記事をご紹介します。
ハヤシ工務店
(千葉県旭市・東金市)
GX志向型住宅をクリアする九十九里仕様
「良い家とは何か」を追求し続ける
九十九里の気候・風土にマッチした高性能住宅を展開するハヤシ工務店。大工の経験・知見を踏まえ、非住宅木造建築にも注力し、地域で永続する住宅事業者を目指す。
私はもともと大工で、36歳の時に工務店を立ち上げました。これまで33年ほど住宅づくりに携わっていましたが、「良い家とは何か」を、それこそ眠れなくなるほど自問自答してきました。大工の時、監督の時、設計の時、それぞれ視点が変われば「良い家」の姿も変わります。ただ、「お客様のため」という目的は変わりません。
17年前からパッシブデザインに取り組み、ドイツに行ってマイスター制度を、米国へビルダーズ協会の研修へと、色々と勉強を進めるなかで高性能な家づくりという考え方が固まってきましたが、その方向を決定づけたのは、8年ほど前に米国のパッシブハウスと出会ったことです。合理性・経済性を重視し、地域ごとに異なる気候条件を考慮する考え方に、地域工務店にとって高性能住宅のあり方はまさにこれだと腹落ちしたのです。
PHIUS(フィアス=北米パッシブハウス研究所)のパッシブハウスコンサルタントの資格を3人が取得、これまで設計・施工基準に則り認証を取得したパッシブハウスは2棟となります。
パッシブハウスは、省エネや快適、環境に優しいことはもちろん、健康や騒音対策、暮らしの悩みを解決できます。しかし、パッシブハウスがすべてだと思っているわけではありません。フラッグシップとして位置づけ、その特徴を提案商品や注文住宅の仕様に落とし込んだりしています。
弊社の施工エリアでの一般的な注文住宅の仕様―私たちは「九十九里仕様」と呼んでいます―は、断熱等性能等級が6程度です。HEAT20がG2・G3を打ち出した時、この辺りのエリア6地域のG2グレードである外皮平均熱貫流率(UA値)0.46W/㎡・Kは超えようと取り組み、現在では0.30〜0.36W/㎡・K程度、パッシブハウスなら0.20W/㎡・Kを実現しています。主な仕様は、窓は樹脂窓の「APW 330」や「APW 430」などを標準に、充填断熱は自社生産のセルロースファイバー断熱材、連続断熱(外断熱)にはフェノール系断熱材を使っています。
先にGX志向型住宅の概要が発表されましたが、その基準は断熱等性能等級6、一次エネルギー消費量削減率が再エネを除き35%以上減、再エネを含み100%以上減というものです。昨年5月以降に引き渡した住宅は、断熱等性能等級は6、一次エネルギー消費量削減率が35%減に達していないのは1棟のみと、すでにGX志向型住宅をクリアしています。
高断熱から
エンボディドカーボンへ
物価高が進み、住宅取得環境が厳しくなりつつあるなか、2024年春に求めやすい価格の企画提案型住宅「COCOCI(ココチ)」を発売しました。温熱環境、耐震、メンテナンス、空気環境、暮らし提案とポイントを絞り込みながら、基本的に間取りは自由、外皮平均熱貫流率は0,36W/㎡・K程度とGX志向型住宅にも対応します。3タイプを揃え、価格は2200万〜2800万円。注文住宅の平均坪単価は120万円程度であり、そこには手が届かないがハヤシ工務店の家を建てたいというお客様に向けた商品です。
ただ、断熱性を高める性能向上の動きはそろそろ終わり、これからはエンボディドカーボンの削減にシフトしていくと考えています。国は今後10年間で150兆円超えのGX投資を打ち出し、このうちの約14兆円が住宅・建設分野です。(一財)住宅・建築SDGs推進センターの建築物ホールライフカーボン算定ツール「J-CAT」の戸建版が7月に出る予定で、まず取り組もうと考えています。
非住宅木造は
木を知る工務店が手掛けるべき
今、力を入れているのが非住宅木造です。木構造の技術が飛躍的に高まり、マスティンバー建築でCLT、DLT、NLTなど新しい建材が生まれ、耐火の制約を除けばスパンを大きく飛ばすこともできます。そうなった時、木造ならば減価償却が早く、低炭素という追い風もあり、補助を活用すればコストも抑えられます。特に3〜4階程度の中規模程度の非住宅木造建築は、木を詳しく知っている私たちのような工務店がまさに手掛けるべきだと考えています。
3年前から取り組みを進め、24年は日本初となるCLT工法によるカーディーラーのショールームや、木造の集合住宅4棟を引渡ししました。これまで公共建築事業は手掛けてきませんでしたが、木造であるならば話は別と、準備を進めています。
新たな事業としては、住宅事業者を対象とする測定やコンサルティング事業にも取り組んでいます。「高性能住宅ですよ」と訴えても、実際はどうなのかという話になりますから、これまで気密性や空気質など、自前で測定器などを購入し、さまざまな性能の測定、実証に取り組んできました。例えば、気密測定は、欧米で一般化しているISOに準拠したブロアードアタイプの測定器を購入しています。
先に、パッシブハウスのコンサル資格取得の話をしましたが、こうした人材や購入した機器を遊ばせておくのはもったいないと、専門部署を立ち上げ、住宅事業者からの相談や測定依頼を受けています。パッシブハウスはコンサルティングだけでなくPHIUS認証の申請代行も行っています。今、マネタイズの形が整い、軌道に乗り始めています。
キープヤングし続け
地域で永続する企業へ
現在、住宅の年間の引き渡しは20棟程度です。非住宅木造もあわせ、今後5年間は売上・利益を年10%ずつ伸ばしていきたいと考えています。住宅については価値観の多様化が進む若い世代のニーズへの対応を進め、同時に非住宅木造の受注拡大にも力を入れていきます。
課題は社内の粗利をしっかりと確保する体制作りであり、DX導入による効率化に取り組んでいます。これまで物件ごとの粗利にばらつきがありましたが一定を確保できる仕組みになりました。そして基幹システムを導入し、受発注システムも動かし始めました。
地域で永続していく会社になりたい。そのためには会社自体をキープヤングし続けることが大事。社員みんなが楽しく働け、地域にも求められる、そのためにも、さらに会社に体力をつけていかなければならないと考えています。
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