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2022/10/04 07:30 - No.1225


第25回 外皮編「気密性能について(8)」


省エネのキホン
堤 太郎

2022/10/04 07:30 - No.1225

 


引き続き「外皮」をテーマとして「省エネのキホン」的考察を進めます。今回も「住宅の気密性能」に関する内容です。
(前回記事はこちら

毎度のおさらいから。

連載の第19回で、過去の省エネ基準でも挙げられていた4項目に「省エネのキホン」的2項目を加えたのが下記の6項目です。

1.「漏気(隙間風)を防止して暖冷房負荷の低減、省エネ性、快適性の向上」

2.「断熱材の性能低下の防止、省エネ性、快適性の向上」

3.「繊維系断熱材採用の場合の室内側気密化による防湿効果で壁内結露を防止、耐久性の向上」

4.「計画換気が成立するための出入り口の明瞭化と必要風量を確保し、健康性、省エネ性を向上」

5.「現場測定による数値化で1棟毎の施工精度を証明」

6.「購入者が依頼業者を選ぶ際の住宅性能における重要な指標」

今回は、この中の5について考えましょう。


■ほとんどの性能は「絵に描いた餅」!

突然、どういうことでしょう(笑)?

まあ、お考えください。

たとえば、お客様に「私たちの家は、UA値0.46、C値0.5、耐震等級3の高性能住宅です!」とアピールしている家は、本当にその通りの性能なのでしょうか??

外皮計算で算出したUA値や、耐震等級が要求する安全性を確認した構造計算書の内容は、あくまで設計値(理論値)であって、実態値ではないですよね。

特にUA値などは、こうあってほしいという意図の元に、定められた所定の材料、一律に定められた熱橋比率、一定の断面構成に基づく計算法で算出している限りは「だいたいその通りであろう」ということで認められ、その内容に準じて適正に施工されれば、当初設計した性能があると許容されているにすぎません(外皮性能を現場測定する技術もありますが実施されることはまれでしょう)。

第三者が判断する設計審査や現場審査(建設評価)も「まあ、できてるよね」ということでOKが出ているだけです。

こんなことを言い出すと、ほとんどの住宅設計・施工を否定するのか!?とお叱りを受けそうですが、もちろん本意ではなく、十分に検討された仕様・建材の選定と実施設計、精度の高い施工により、実態が当初設計内容にほぼ近くなるとみなしても見当違いではないでしょう。
あくまで想定値であるという域は超えませんが、実際に住むのにそこまでの精度は求めていない(差を体感することもないので必要性も無い)とも言えます。

ただし、冒頭のアピールのセリフの中で唯一、想定ではなく実測しなければ分からないのはC値で表される気密性能です。
実際に個々の物件の気密試験を実施しない限りは、「この住宅のC値は0.5です」などと断言できないはずです。

にもかかわらず広告やHPなどで自社の気密性能が記載されているとしたら、過去に実施した物件の平均値などで表しているのが大半でしょう(実施の具合が全棟なのか、一部なのか、モデル等だけなのかは各社の取り組みによるでしょうが、、、)。

そしてそれら過去の実績をそのまま、これから建てる、もしくは建てた物件の「参考数値」として使用できるのは、「測定した過去物件と同等の施工精度が確実に再現できる」という場合です。

施工精度が確認できないままの施工は、どれだけ建てようと、ただの建築「経験」でしかありません。
もちろん経験数が少ないよりは多い方がスムーズに家は建つでしょう。
しかし、ここで取り沙汰している施工精度とは、繰り返しの測定結果を元に、都度、施工内容に改善点をフィードバックして初めて得られるものだと考えます。

今回施工した物件で出た数値、次の物件で出た数値、さらに次の物件で出た数値をそれぞれの施工内容と共に比較しながら検討、改善、向上して得られたノウハウこそが、再現性の高い施工精度につながると言えます。

ノウハウ蓄積の為のフィードバック~改善も含めて、測定物件の気密性能向上で有効なのは、同一物件での2回測定です。

測定のタイミングは、
上棟後、断熱材・気密施工や各種穴開け完了時(内装仕上げ前)
竣工時
の2回です。

の気密試験では、求めるレベルの気密性能が概ね確保できているかの確認と、万一、大きく下回っていたり異常が判明した場合に(C値や隙間特性値:n値の具合で判断可能)、各部位をチェックすることで施工のリカバーができます。問題の箇所は必ずしも壁面などの閉じた部位だけではなく、サッシの障子の建て付け具合や玄関ドア下枠の隙間など多種多様ですが、気密試験は主に室内を減圧して測定しますので、室内に吹き込む隙間風も分かりやすく、そこを閉じれば改善できます。

②の気密試験はすべての内装が終わっていますので、最終の実態性能が分かります。
自社ノウハウとしての施工精度が高く、気密性能実績が安定して確保できているのであれば、この竣工時試験のみとしても良いでしょう。


■これからは「見える化」が強みに

今回は今までに無く?くどくどと述べましたが(笑)、申し上げたいことは、「全棟、気密試験は実施しましょうね」ということに尽きます。


実測でしか得られない数値そのものが自社の施工精度を示すということは、それはそのまま、他社との差別化につながります。
ただ注意が必要なのは、過度の数値勝負は意味が無いということです。

Facebook等のSNSでも、主に実務者発信による「C値0.1!」だの「測定不能!」だというような投稿も散見されますが、それのみをことさら競う必要は無いと考えます。

 
堤 太郎
一般社団法人 みんなの住宅研究所

一般社団法人 みんなの住宅研究所 代表理事/株式会社 M's構造設計所属。一級建築士、CASBEE戸建評価員、BISほか。1966年奈良県生まれ。1990年摂南大学工学部建築学科卒業。関西商圏のビルダーに27年勤務し、主に2x4工法(枠組壁工法)の戸建住宅設計に携わる。2013年にドイツのフライブルクをはじめとした各地の研究機関・企業等をツアー視察した後、ATC輸入住宅促進センター(大阪市)主催の省エネ住宅セミナーにて、企画のアドバイスやパネルディスカッションのコーディネーターとして複数参加。2018年にM’s構造設計に参加、「構造塾」講師や「省エネ塾」の主催、個別コンサルタント等を行っている。

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