前回までは、「なぜ断熱するの?」というタイトルで「断熱性能」によって決まってしまう「室内の温熱環境」の向上が必要な理由を、ほぼ「温度」だけ取り上げてお話してきました。
もちろん室内の健康・快適性を左右するのは温度のみならず、湿度や空気質、照明、内装、音響、衛生(生物・非生物)、果ては水平・傾きまで様々な要素がありますが、まず注目すべきは、やはり「温度」です。
望む体感温度を容易に得られない住宅で、他に何を語るの?と思います。
今回からは、その「温度」自体について、お話を進めていきたいと思います。
■そもそも「温度」って?
省エネ基準が改正されてから、断熱性能を示す指標としてUA値(ゆーえーち:外皮平均熱貫流率)が導入されました。
その計算では外壁や窓、床、天井(屋根)など各断面部のU値(ゆーち:熱貫流率)による熱損失量をすべて合計してから、家全体の外部に面する外皮面積で割って平均化するので、「A(アベレージaverage:平均)」が付いているのですね(このUA値については別の機会に改めて取り上げます)。
今回は数字の高い・低いを気にする前に、単位に注目ください。
U値の単位は「W/(㎡・K)」です。
前・省エネ基準で使用されていた指標のQ値(きゅーち:熱損失係数)と見た目(構成)は同じですが、各項目で扱う内容が若干異なります。
その各項目をそれぞれ見てみますと、
「W(ワット)」はここでは「建物から逃げていく熱量」を示していますが、
1W=1J/s(仕事率・工率)
1W=1V×1A(電力)
などの関係に置き換えられることから、エネルギー消費量に直結する単位となります。
続けて「㎡(平方メートル)」は、まさしく面積を示しており、外皮面積だけでなく床面積だの開口面積だの、日常でおなじみの単位ですね。
そして最後の「K」・・・
アルファベット1文字が突然出てくると違和感ないですか?
ここには温度差を入れる、とだけ覚えてスルーしていませんか(笑)?
これは「K(ケルビン)」という単位です。
「絶対温度」などとも表現しますが、正しくは「熱力学温度」と称します。
SI(国際単位系)の基本の7つ(m、kg、s、A、K、mol、cd)に含まれる立派な「SI基本単位」の一つです。
どのような位置づけになるかを、他の温度単位と比較してみましょう。
◆摂氏(せっし)温度 ℃ 「Celsius(セルシウス)」
名称は考案者アンデルス・セルシウス(スウェーデン、1742考案)より。
日本でも使用している世界的な温度単位ですが、正確には「セルシウス温度」と称します。
当初は「1気圧(標準大気圧)」の状態で、水が凍るときが0度、沸騰するときが100度、その間を100等分したものを1度と設定されました。
現在は後述のK(ケルビン)を元に定義されています。
◆華氏(かし)温度 ° F 「Fahrenheit(ファーレンハイト)」
名称は考案者のガブリエル・ファーレンハイト(ドイツ、1712考案)より。
華氏(° F)では、水が凍るときが32度、沸騰するときが212度となります。
その差の180度を100で割って1度としているので、「° F=1.8×℃+32」と計算できます。
たとえば、37 ℃ → 98.6° F ≒ 100° F
となるので、人の体温相当がだいたい100°F弱と覚えておけば、人体に関する比較ができるでしょうか?
華氏(° F)温度を使用しているアメリカや一部の英語圏の温度計(および一部家電)ではさりげなく° Fで表記がされていますのでご注意を!
◆ケルビン K 「kelvin(ケルビン)」
名称は提案者の「ケルビン卿」ウィリアム・トムソン(イギリス、1848考案)より。
すべての分子運動が停止する「絶対零度(-273.15℃)」を「0 K(ケルビン)」と定め、1 Kの間隔は摂氏温度と同じに設定されました。
言い換えると「0℃=273.15 K」ということですね。
元々は自然界の最低温度とされる「絶対零度(-273.15℃)」がシャルルの法則から予測され、この下限温度を基準にした普遍的な温度単位「絶対温度」がケルビン卿から提案されました。
そして1968年、国際度量衡総会が、この絶対温度をもとに、新しい国際的な温度の単位として定義したのが「K(ケルビン)」です。
その際は「熱力学温度の単位、ケルビンは、水の「三重点」の熱力学温度(0.01℃。水が、水でも氷でも水蒸気でもいられる温度)の1/273.16である」と定義されましたが、その後の会議を経て、現在はボルツマン定数を基準として定められています。
このケルビンの定義変更を含む新しいSIは2019年5月20日に施行されました(日本の法令上も同日施行)。
ちなみに、人工的な温度では、十億分の1 K以下という低温まで近づくことに成功していますが、絶対零度そのものへの到達は不可能とされています。
ここで覚えておきたいポイントは、
・温度の国際標準単位は「K(ケルビン)」である
・「K(ケルビン)」の単位1 Kは、1℃と同じ幅
・「絶対零度(-273.15℃)が0(ゼロ) K」なので、「K(ケルビン)」にマイナスの値は存在しない
の3点です。
特にマイナスの値が無いことによって、物理学や化学の世界ではとても扱いやすい温度となっているのです。
◆その他の温度
ランキン度、ドリール度、ニュートン度等、今までに考案された温度は複数ありますが、いずれも普及せず使用されないことから、ここでは割愛します。
以上、初回は、温度の単位の説明だけで終わってしまいました。
次回からは、具体的な「熱の伝わり方」を中心に、と予定します。
オマケ:
「断熱は暑さにも寒さにも有効」、「断熱には気密が重要」という事の意味を、たとえば魔法瓶(携帯用ポット)で置き換えて考えてみましょう。
ポットの中身(なかみ)が「熱い(冷めてほしくない)場合」も「冷たい(ぬるくなってほしくない)場合」も、しっかりと断熱された容器に入れて、ちゃんとパッキンの付いたフタをすることで、温度が長く保たれます。
(ちなみに、この「保温」という尺度で住宅性能を比較・検討するにはQ値を使用するのが適しています。決して過去の指標ではありません!)
この「保温したい」という目的は同じなのに、なんで住宅になった途端に、
・「温暖地では断熱は“そこそこ”でよい」とか
(堤:温暖化の進んだ昨今、寒暖差も大きく、一年中で快適な気候なんてほんのわずか・・・そもそも冬も夏も暖冷房は不可欠でしょう?)、
・「断熱さえすれば中気密で」とか
(堤:容器の断面部や外に中身が漏れていったら意味なしです・・・まずはしっかり閉じる!)、
・「気密したら息が詰まる」
(堤:ちゃんと中身を出し入れできるフタ=換気経路も窓もあるんです・・・それらがちゃんと機能するのが重要)
などの反応が出てきたりするのでしょうね~?
本当に謎です!